毎朝、すれ違う女性
最近、通勤途中でほぼ毎朝すれ違う女性のことが気になっています。
というのも、その女性がいつも歩きながら、
怖いくらい食い入るように文庫本を読んでいるからです。
最初は、危なくないのかな、と思っていたのですが、
彼女はブックカバーをつけていないので、
次第に読んでいる本が気になるようになってきました。
だいたい、一週間で一冊を読み終えるペースのようですが、
浅田次郎の『プリズンホテル』に始まり、
奥田英朗の『イン・ザ・プール』、
荻原浩の『神様からひと言』と、
読んでいる真剣な表情からはイメージが違うのですが、
どうもユーモアがありながら、最後にほろりとさせる小説を好んでいるようです。
しかし、今度の本の選択に私は少々驚かされました。
というのも、彼女が熱心に読んでいるのは、
「歴史街道」にもよくご登場いただく、宮本昌孝先生の『剣豪将軍義輝』だったからです。
私自身、好きな本ということもあり、
こんな若い女性が歴史小説も読むんだ、
と、歴史雑誌の編集に携わる身としては、少し嬉しくもなりました。
そんなふうにすれ違うだけの日々が続いていたのですが、
今朝、彼女に声をかけようかどうか、悩む事態が生じてしまいました。
向こうは私のことなど全然意識していないでしょうし、
突然、声をかけたりしたら、「変な人」といわれるのもわかっています。
ひょっとしたら、大きなおせっかいかもしれません。
でも、同じ「本読み」として、どうしてもひと言忠告したくなったのです。
というのも……
彼女は、昨日まで読んでいた『剣豪将軍義輝』の「上巻」を首尾よく読み終えたようで、
今朝から、その「下巻」にとりかかっていました。
昨日の夜、読んだのならいいんです。
でも、彼女の読書ペースからいってそれは考えられない気がします。
つまり、私はこう言いたいのです。
「その本、“中巻”があるのは知っていますか?」 (横)