頁数/仕様
144ページ / 縦:18.8cm 横:12.8cm
初版
2021年4月
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ホスピス医だから知っている 後悔しない 一度きりの「お見送り」

大切な人を亡くしお見送りするとき、どう向き合えばいいか、遺された人はどう乗り越えるのか。ホスピス医が、多くの看取りの現場を経験する中で感じたことをアドバイス。
著者(肩書) 徳永進《内科医》
主な著作 『野の花あったか話』(岩波書店)
編集等
税込価格 1,320円   (本体価格:1,200円)
対象 一般
頁数/仕様 144ページ / 縦:18.8cm 横:12.8cm
初版 2021年4月

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私が医者になったのは、昭和49年のこと。ですから、もうかれこれ46年間も医療の現場に携わってきたことになります。
その後、鳥取市内に小さなホスピス「野の花診療所」を構えました。意外にハードな職場でして、人が亡くなられるのに決まった時間というものはありませんから、土日祝日、夜中でも、それに合わせて動いていく。
「なぜ続けておられるんですか」と聞かれることもありますが、なぜなんでしょう。いろいろな理由があると思いますが、一つだけ挙げるとするならば、高校2年生のあの日がきっかけだったかもしれません。
高校2年生の頃、「自分はどこから来たのか」「命の始まりはどこからか」ということにとても興味を持っていました。そんなある日のこと、近くの大学で「命の起源」という講義をやっていると知って、聴きに行くことにしました。高校の授業はサボって、自転車に乗って。
ワクワクしながら会場に入ると、ちょうど「生命の起源は……」と講義が始まっている。どんな答えが聞けるのかと耳をすませていると、「石炭です」という答え。大学の先生も学生たちも「石炭」ってノートにメモをしている。
僕は、「そんな、アホな……」と、その答えが気に入らなくて、それで途中で教室を後にしたんです。
帰り道、自転車をこぎながら自分なりに考えたのは、「有」があるなら「無」があるということ。「無」が「有」になるのはどうしてか? よくわからなかったけれど、ある命はいつかなくなるんだ。それって悲しいわな、寂しいわなって思いました。だったら、その死のときに横にいて、手を握ってあげる仕事をしたいな、と思ったんです。ロマンチックでしょう。
高校2年生のとき、自転車をこぎながら考えたこと。それが今の原点になっています。過ちの始まり、とも言えるかもしれませんね。でも、初心って続くんですよ。純粋な心、初心っていうのは意外に長続きするんですよね。
今でも、その初心がどこかにあって、亡くなる人があると「あの日のこと」を思い出します。そうやって、46年間歩んできました。
「命はどこから来たんだろう」。この問いには、まだ答えを得ていません。わからないなりに生きているわけですが、「生きている」ということ自体が奇跡の現象です。生きていると、ついそれを忘れてしまいますが。そのことばかり考えていても生きていけない。ですが時々「生きていること自体が奇跡だなぁ」と思い出してもいいんじゃないか、と思うんです。
最近、日暮れて、診療の合間に出身高校の周りを散歩に出たりしているからでしょうか。元気な高校生の姿を見かけて、原点となった55年前の自分の高校時代をふと、思い起こしたのかもしれません。
46年間、様々な看取りの現場を経験する中で感じたこと、考えたことをぜひ皆さんとお分かちしたいという思いに至りました。少しだけ日常を離れて、ホスピスで私が教えられたことから、「生きること」「死ぬこと」について思いを馳せる時間をいただけましたら、これほどありがたいことはありません。  (「はじめに」より)

【第1章】看取りの現場で感じたこと
・患者さんに告知してはいけなかった
・「否認、怒り、抑うつ、取引、受容」告知を受け入れる5段階
・伝えるべきか、伝えるべきではないか
・身体から自然と教えられる
・「やることはやった」自分なりの納得を得る
・どこかであきらめる
・手遅れになるまで生ききる人生は天晴れ

【第2章】死に直面すると人はどうなるのか
・皆と離れていく寂寥感が大きい
・「あきらめる」「耐える」「受諾」「死の要望」「従容」を経て死を受け入れる
・「あとどれくらい生きられる?」
・死を目の前にして成長する
・身体に痛みが出てくる
・日々の小問題を乗り越える
・死を目前にしても「生きたい」という気持ちがある
・その時々に正直に向き合う
・死に目にあえないと後悔しがち

【第3章】お見送りで心の支えになるもの
・「家族がいない」のが普通になってきた
■それぞれのお見送りから
・飲まれないスープ、最期の握手
・嫌いと思っていた父が実は好きだった
・100歳の母に1日でも長く生きてほしい
・「亡くなってほしい」と思ったことを後悔
・安らかな死を迎えさせてあげたい
・ベルガモットティーと床を叩きながらの慟哭
・「今日は、誰かそばにおってくれ」
・グリーフケアの会で耳を傾けてもらう
・「死ぬな、生きてくれ!」という狂気
・「心に穴が開いたまま、生きていこう」

【第4章】お見送りは在宅でするほうがいい?
・最期くらいは呼吸を感じてそばにいてあげたい
・「最期は、家に帰りたい」
・ひとりで死ぬという選択肢もある

【第5章】 後悔しないお見送りとは
・より穏やかな看取りのための6つの言葉
(1)和解
(2)カンファレンス(話し合い)
(3)宗教
(4)別れの言葉
(5)迷惑
(6)後悔
・自分たちなりに迷いながら、思うままに進んでいく
・会うことで死は腑に落ちていく
・死に関していろいろなとらえ方を知る