人名事典

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笠谷和比古

(かさや・かずひこ)
 一九四九年兵庫県生まれ。京都大学文学部を卒業後、国立史料館助手を経て、国際日本文化研究センター教授に。専攻は日本近世史。

 これまで、悪辣な家老の仕業とされてきた主君「押込」の慣習を、江戸時代に広く行われるようになった藩主廃位の制度として見直した、『主君「押込」の構造』(平凡社 八八年)によって注目される。

 笠谷氏によれば、藩の家臣団が放蕩を続ける藩主やひ弱な主君を廃位し、新たな主君を擁立する「押込」は、江戸中期にはすでに幕府公認の制度となっていた。このことは、単に江戸時代の藩主と家臣の関係を見直すだけでなく、江戸時代の政治制度そのものの見直しを要求するものだった。また氏の『士(サムライ)の思想』(岩波書店)は、この時代の武士道が、自立した個人(武士)を前提とするものだったと論じて衝撃を与えた。

 江戸時代の政治・経済の研究進展は、幕藩体制を暗黒時代と見てきた歴史観の変更を迫る。江戸文化のルネサンス、江戸時代の経済の再評価のなかで遅れていた、江戸時代の政治制度の見直し作業の進展が、笠谷氏の今後にかかっているといえよう。

 著作に『近世武家社会の構造』(吉川弘文館)、『関ヶ原合戦』(講談社選書メチエ)などがある。

(データ作成:1997年)