母さん、ごめんなさい
発売日
2001年05月01日
判 型
文庫判
ISBN
978-4-569-57548-3

母さん、ごめんなさい
母とグレた息子の物語

著者 安部譲二著 《作家》
主な著作 『塀の中の懲りない面々』(文春文庫)
税込価格 660円(本体価格600円)
内容 少女時代をイギリスに過し、戦後の混乱の中で四人の子供を育て上げた母の一生を、グレた末っ子の目を通して描く感動のドラマ。



 カバー裏のコピーに、服役中の息子(著者)に面会した時の母の言葉が紹介されている。「ナオちゃん、貴方を最後に産まなかったら、こんな刑務所とか看守さんなんて、わたしには映画の世界のことだったわ」という一文である。こんな洒落たユーモア溢れる励ましの言葉をかける母親を持った息子は、置かれている境遇は別として、幸せ者に違いない

 本書は、少女時代をロンドンに過ごした明治生まれの女性が、大正・昭和をいかに生き抜いたか、その姿を、母の一番の心配の種だった著者の目を通して描いた「女の一生」の物語である。

 著者の作品には、自分の特異な体験を題材にした作品が多いが、本書ではそれが程よくセーブされ、男性優位の時代に生まれた女性が、どのように夫に尽くし戦争を見つめ、戦後の混乱期に子供を育てたかを、冷静に、時にユーモアをもって描いている。かつての日本にはこんな家族があったのだということを思い出させる伝記小説の佳作である。