落とし穴
発売日
2003年05月01日
判 型
文庫判
ISBN
978-4-569-57943-6

落とし穴
鎌倉釈迦堂の僧たち

著者 杉本苑子著 《作家》
主な著作 『孤愁の岸』(講談社文庫)
税込価格 628円(本体価格571円)
内容 何が人を救い、仕合せへと導くのか。鎌倉釈迦堂に集う僧たちの悩みを通し、生きること、奉仕することの意義を問う珠玉の時代小説集。



 女流文学賞に輝いた作品『穢土荘厳』のなかで著者は、救済活動を積極的に行なった宗教家・行基のことを丹念に描いている。本書は、その行基同様、貧者・病者救済に生涯をささげた僧・忍性とその弟子たちの物語である。

 鎌倉釈迦堂を拠点に活動を続ける忍性らの日常生活は、徒労感・挫折感との戦いだった。救う側の独善、被害者のエゴが剥き出しになり、ボランティア活動の現場には、きれい事ではすまない現実が待ち受けているのである。人間愛の大切さは誰もが認めながらも、時には愛は人の仕合せを奪うこともある。恵むこと、奉仕すること、それを享受することの難しさ…。

 学生時代に、忍性が造った救済施設・奈良北山の十八間戸を訪ねた著者は、彼らの活動に宗教家のあるべき姿を見出し、鎌倉における彼らの活動を、いつの日か書いてみたいと思うようになったという。

 時代小説でありながら、宗教の存在意義や慈善行為の問題点に鋭く迫る珠玉の連作短編集。