教養としてのヨーロッパ史
発売日
2023年04月26日
判 型
A5判並製
ISBN
978-4-569-85449-6

ビジネスエリートが知っておきたい
教養としてのヨーロッパ史

著者 伊藤 敏著 《代々木ゼミナール講師》
税込価格 1,782円(本体価格1,620円)
内容 キリスト教や教会をどのように利用して国家を築こうとしたのか、そして先にあるヨーロッパ統合の運命とは。ヨーロッパの源流に迫る。



 「ヨーロッパとは何か」。この問いに答えることは、当然ながら容易ではない。ヨーロッパに属する国々は、まさに「多様」の一言に尽きる。地理的な区分では、ヨーロッパは地球全体の陸地面積のおよそ6.8%、総人口は地球全体のおよそ11%を占めるが、この比較的規模の小さい文化圏が、今日に至る世界の歴史に重大な影響を与え続けてきたのである。

 16世紀より世界進出を本格化させたヨーロッパ諸国は、19世紀後期に地球上の大半を支配することになった。1900年頃の世界で「列強」という言葉は「ヨーロッパ諸国」とほぼ同義であったと言える

 だが、2度の世界大戦を経て、ヨーロッパが世界を制した時代は終わりを告げ、米ソ冷戦の狭間でその影響力の後退は避けられなかった。この情勢を受けて結成されたのが、1952年のヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)であった。第二次世界大戦の記憶の色褪せぬ時期に、分断されたドイツも含めた6カ国がヨーロッパ統合に向けて動き出したのである。ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体は、1967年の合併(ブリュッセル)条約によりヨーロッパ原子力共同体(EURATOM)とともにヨーロッパ経済共同体(EEC)の執行機関に統合された。機関の吸収統合後は一般にヨーロッパ共同体(EC)として知られる。1992年に、ヨーロッパ共同体の加盟国協議によりマーストリヒト条約が署名され、翌93年に発効し、ここに今日のヨーロッパ連合(EU)が発足した。だが、このヨーロッパの道は、決して平坦なものではなかった。

 ヨーロッパ統合については、時期尚早であったとの意見も少なくないが、それでもなぜヨーロッパは統合への道を推し進めたのか。もちろん、米ソという超大国や日本などの新興国に対抗する経済圏の役割を期待したのは言うまでもないが、ここで注目すべきは「元来のヨーロッパが単一の文化圏であった」ことである。単一の文化圏としてのヨーロッパの起源は中世にあり、20世紀後期に始まる一連のヨーロッパ統合運動は、ヨーロッパ諸国にとっては原点回帰と言える。ヨーロッパ文化圏を考察するにあたり、近代や古代に遡るものは多く見られるが、一方で中世を起点としたものは比較的少ないように思える

 本書は、中世ヨーロッパを軸に、今日のヨーロッパがどのように形成されたのかを概説するものである。まず、中世という時代を俯瞰し、さらにヨーロッパ各国の形成の過程に焦点を当てるものである。本書を一貫する主題は、「分断と統合」である。ヨーロッパは中世の形成期より、分断と統合を繰り返してきた。ヨーロッパ文化圏そのものだけでなく、中世ヨーロッパ各国もまた、分断と統合を交互に経験したのである。したがって、マクロの視点(ヨーロッパ)とミクロの視点(各国・地域)の「分断と統合」の過程を比較することで、今日のヨーロッパがどのように醸成されてきたかを概観することが、本書の最大の目的とするものである。ヨーロッパ文化圏はどのように誕生し、今日のヨーロッパ諸国はどのような命運を辿ることになったのか。その分岐点となった決定的な事象が、中世には存在するのである。