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第27回山本七平賞『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の著者・新井紀子氏、受賞の言葉

平成30年11月9日(金)、帝国ホテル東京光の間にて、第27回山本七平賞贈呈式が執り行われました。
本年の山本七平賞は、新井紀子著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)が選定されました。新井氏の受賞の言葉と選考委員・伊藤元重氏による講評(選考理由)をご紹介します。

AIVS教科書が詠めない子どもたち

 

新井紀子氏、第27回山本七平賞 受賞の言葉

新井紀子

新井紀子氏
 

拙著『AI vs.教科書が読めない子どもたち』を、第27回山本七平賞に選んでいただき、まことに名誉なこととありがたく思っております。
21世紀の最初の30年は、後の世に「第四次産業革命」、あるいはITとデータサイエンス技術の発達によって「人による労働の価値がいちじるしく低下した時代」として記憶されることになることでしょう。
民主主義が台頭した時代とは、じつは、テクノロジー革命により産業革命が起こった時代と重なります。南北戦争は、北部の工業地帯と、南部の大農園主とが希少財であった労働を奪い合った戦いとして読み解くこともできるでしょう。都市部の工業労働者、そして20世紀には都市部のホワイトカラーが資本主義に必須であったために、労働者の権利が認められ、義務教育が生まれ、女性の参政権も認められ、民主主義の範囲が拡大してきました。資本主義は、賃金というかたちで労働者に富を配分するシステムとしても機能してきました。その意味で、資本主義と民主主義は双子の兄弟のような存在だったといえるかもしれません。
AIやロボットにより雇用の必要がなくなる時代、少なくともその価値が大きく損なわれる時代は、資本主義と民主主義、加えて国民国家の危機を招くことでしょう。それは私たち人類がこれまで直面してきたさまざまな危機のなかでも、大規模なものとなるはずです。
その危機をどう生き抜けばよいか。一介の数学者には重すぎる課題ですが、まずAIの可能性と限界を明らかにしたうえで、AIに欠けている「意味を理解しながら正確に読む」という能力が、中等・高等教育を受けた若者にもじつは欠けていることをエビデンスから示そうと精一杯取り組んだのが本書です。幅広い読者の方が手にとってくださったことを稀有な幸運と感じております。このたびはまことにありがとうございました。

新井紀子(あらい・のりこ)

国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。1962年東京都生まれ。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒。イリノイ大学5年一貫制大学院数学研究科を経て、東京工業大学より博士号(理学)取得。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクター、2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。著書に『ハッピーになれる算数』(イースト・プレス)、『数学は言葉』(東京図書)、『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)など多数。
 

選考理由

伊藤元重

選考委員 伊藤元重氏
 

「政治は変化だ改革だと騒ぐが、それで社会が大きく変わることは少ない。ガレージの片隅で若者が取り組んでいた技術が、いつの間にか世界中に静かに広がり、それで社会は大きく変わってしまう。世の中を本当に大きく変えるのは技術だ」
何年も前に読んだ本に書いてあったことだが、そのとおりだと思う。そして、現代社会を根底から変えるかもしれないのが、AIであるのだ。
私たちの社会や生活がどう変わるのか。それを考えるためにも、より多くの人が大きく変わる技術に関心をもつべきだろう。新井紀子氏の『AI ⅴs.教科書が読めない子どもたち』は、いろいろ考えさせてくれる著作である。東大入試を突破することができなかったAIが登場することで、神格化された技術ではなく、強さも弱みももった等身大のAIの姿が描写される。AIが人間をすべての面で超えるというシンギュラリティーは当分ありそうもないという著者の指摘には、批判的な専門家もいるだろう。ただ、それで議論がさらに広がればよいだろう。
本書の最大の特徴は、タイトルからも明らかだ。AI技術の進展のなかで子どもの能力に危険信号が灯っている。「教科書が読めない」という表現に象徴されているように、AIを使いこなす能力ではなく、AIに代替される能力に偏向している。人間のみがもち得る本来の能力を失いつつある。技術の社会への影響をより深く考えるためには、教育論に踏み込む必要がある。本書を通じて、そうした方向での議論が高まることを期待したい。
 

山本七平賞について

山本七平賞は、1991年12月に逝去された山本七平氏の長年にわたる思索、著作、出版活動の輝かしい成果を顕彰することを目的に、1992年5月に創設されました。
賞の対象となる作品は前年7月1日から当年6月末日までに発表(書籍の場合は奥付日)された書籍、論文で、選考委員は、伊藤元重(学習院大学教授)、呉 善花(拓殖大学教授)、中西輝政(京都大学名誉教授)、八木秀次(麗澤大学教授)、養老孟司(東京大学名誉教授)の5氏。

山本七平賞第27回贈呈式

山本七平賞の過去の受賞作はこちらへ


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