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第29回山本七平賞 奨励賞『世界は贈与でできている』の著書・近内悠太氏、受賞の言葉

2020年11月13日(金)、都内のホテルにて、第29回山本七平賞贈呈式が執り行われました。本年の山本七平賞は「該当作品無し」となりましたが、山本七平賞 奨励賞に、近内悠太 著『世界は贈与でできている』(ニューズピックス)が選定されました。

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第29回山本七平賞贈呈式

本年は、新型コロナウィルスの感染防止の観点から、祝賀パーティは実施せず、受賞者と選考委員、主催者のみで贈呈式を行いました。当日の様子につきましては、下記の動画をご覧ください。

近内悠太氏による受賞の言葉

このたびは、山本七平賞 奨励賞をいただき、畏(おそ)れ多くもありながら、大変うれしく思っております。
私たちは、贈与すなわち見返りを求めず何かを手渡し手渡されるという関係性を他者と結んでいます。助けあいという贈与の相互作用によって私たちは生きています。ですが、贈与という利他的行為には、実は危うい側面も潜んでいます。誰かに親切にしてもらったのに、その恩返しができないままだとどこか居心地が悪く感じます。ときには、私は何も返すことができない、自分は誰の役にも立っていないという自責の念に囚(とら)われることもあります。私たちに備わった人間的本性がここにあります。
贈与と返礼を通して、私たちは他者とたしかにつながっている。
哲学者である鶴見俊輔は『身ぶりとしての抵抗』(河出書房新社)のなかで、アナキズムを「権力による強制なしに人間がたがいに助けあって生きてゆくことを理想とする思想」と定義しました。権力による強制ではなかったとしたら、つまり暴力ではなかったとしたら、一体何によってそのような社会を実装するのか? 私はそれを「想像力」だと思っています。本書の後半で、想像力に関する考察と、贈与と想像力の関係についての議論があるのはそのためです。
私たちに等しく備わった想像力によって、この世界と出会い直す。
忘れていた大切なものを思い出して、他者と出会い直す。
そのような契機を論じた本書を、選考委員の方々にご評価いただけたことに心より感謝申しあげます。

近内悠太(ちかうち・ゆうた)

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教育者。哲学研究者。1985年神奈川県出身。慶應義塾大学理工学部数理科学科卒業、日本大学大学院文学研究科修士課程修了。専門はウィトゲンシュタイン哲学。リベラルアーツを主軸にした総合型学習塾「知窓学舎」講師。教養と哲学を教育の現場から立ち上げ、学問分野を越境する「知のマッシュアップ」を実践している。本書がデビュー作。

長谷川眞理子氏による講評

お金だけがすべてではない、幸せにはお金以上のものがある、ということは、誰でも心の底では思っているのでしょうが、やはりお金に流される日常です。では、「お金がすべてではない」とはどういう意味か、これもなかなか一言では表せません。本書は、お金のやりとりには換算できない「贈与」という行為が、人間の生活のなかでいかに重要であるかを分析しています。著者は哲学者で、現代の社会や人間の文明について、贈与という概念を中心に深く考察しています。自分たち以前の世代から私たちへ、親から子へ、見知らぬ人たちから私へ、そして、私からまだ見ぬ人々へ。贈与という行為とその概念がいかに人々のあいだに絆をつくり、社会関係を豊かにしているか。アニメや映画など、さまざまなメディアで描写されている社会関係の断片を切り取り、そこから贈与という概念の考察にもっていく、その手際には、読者をぐいぐいと引き込む力があります。それというのも、いまの資本主義・自由主義の市場経済の社会が、あまりにもお金を産むこと、お金を増やすこと、お金によって評価することに走りすぎているからなのでしょう。
近内悠太さんはまだお若いし、これが最初の出版です。そこでいきなりの受賞には、いささかの躊躇(ちゅうちょ)もあります。「彗星のごとく」現れ、その後はあっと言う間に消えることがないよう、今後、どのように独自の分析とお考えを発展させていけるのか、期待を込めて見守っていきたいと思います。

山本七平賞について

山本七平賞は、1991年12月に逝去された山本七平氏の長年にわたる思索、著作、出版活動の輝かしい成果を顕彰することを目的に、1992年5月に創設されました。
賞の対象となる作品は前年7月1日から当年6月末日までに発表(書籍の場合は奥付日)された書籍、論文で、選考委員は、伊藤元重(学習院大学教授)、中西輝政(京都大学名誉教授)、長谷川眞理子(総合研究大学院大学学長)、八木秀次(麗澤大学教授)、養老孟司(東京大学名誉教授)の5氏。

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山本七平賞の過去の受賞作はこちらへ


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