• HOME
  • ニュース
  • 第32回山本七平賞『諜報国家ロシア』の著者・保坂三四郎氏、受賞の言葉

ニュース
  •  
  •  


第32回山本七平賞『諜報国家ロシア』の著者・保坂三四郎氏、受賞の言葉

2023年11月29日(水)、都内のホテルにて、第32回山本七平賞贈呈式が執り行われ、4年ぶりの祝賀パーティが実施されました。本年の山本七平賞は、保坂三四郎著『諜報国家ロシア』(中公新書)が選定されました。

諜報国家ロシア.jpg

第32回山本七平賞贈呈式

当日の様子につきましては、下記の動画をご覧ください。

山本七平賞「受賞の言葉」

 ロシアに関心を持つ学生に向けて書いた拙著が、山本七平賞を頂いたことは青天の霹靂でした。
 一部の読者から、「衝撃を受けた」「ソ連時代から何も変わらない」「ロシアの将来に絶望した」などの感想を頂きました。しかし私が訴えたかったのは逆で、一縷の望みです。
 
 ロシアという国家はタタールのくびき、ナポレオン侵攻等の体験から「緩衝地帯」を必要とするとか、殺戮を繰り広げるプーチンの残虐性はロシア人に生来のものだ、という議論が時々聞かれます。こうしたマクロな歴史・地理的条件やミクロな人間心理に説明を求める議論は、対極に位置するように見えて、実はどちらも宿命論であるという点で似ています。変化のためには何をどうしたらよいのか、教えてくれません。私は、ロシアの変化を阻むのは、情報保安機関という巨大な制度であると訴えてきました。制度は人間が作り上げたものであり、変えることができます。民主化が進んでいる多くの東欧諸国は、全体主義下で生まれた情報保安機関(政治警察)を廃止しました。それに対し、ロシアではソ連崩壊後も生き残ったKGBの後継機関が市民社会(民主派)の萌芽を摘み取りました。

 しかし拙著は、この盤石な制度を支える思想「チェキズム」が、世代を超えて情報保安機関の要員に支持される原因を十分に明らかにできていません。それは山本七平氏のいう「空気」に近い何かかもしれません。偉大な先人と対話の機会を作って頂いたことに心より感謝します。

保坂三四郎(ほさか・さんしろう)氏 プロフィール

1979年、秋田県秋田市生まれ。上智大学外国語学部及び放送大学院卒業。2002年在タジキスタン日本国大使館、04年旧ソ連非核化協力技術事務局、18年在ウクライナ日本国大使館などの勤務を経て、21年より国際防衛安全保障センター(エストニア)研究員、タルトゥ大学ヨハン・シュッテ政治研究所在籍。専門はソ連・ロシアのインテリジェンス活動、戦略ナラティブ、歴史的記憶、バルト地域安全保障。17年ロシア・東欧学会研究奨励賞、22年ウクライナ研究会研究奨励賞受賞。
保坂三四郎.jpg

八木秀次氏による講評

 一報に思わず、「殺された!」との声が漏れた。本書読了間際だった。
 8月下旬、ロシアの民間軍事会社ワグネルのプリゴジンが搭乗していたジェット機が墜落した。彼は6月下旬、途中で断念したが、モスクワへの進軍を開始していた。プーチン大統領は「裏切り」と非難した。秘密警察に誰もが監視され、「裏切り」者は必ず「粛清」される――。本書は、このロシアという国の構造と行動原理を明らかにした。
 
 ソ連時代のKGBはソ連崩壊後も名前を変え、むしろ権限を強めて存続している。プーチン体制の中核を担う。外国に対してアクティブメジャーズと呼ばれる政治工作を行い、自国の悪口を言いながら政治家や学者、記者などに近付く。相手は自覚しないままにインフルエンスエージェントと呼ばれる協力者になる。インテリほど簡単だという。「ウクライナにネオナチがいる」なども、ロシア発の偽情報。米大統領選にも介入した。日本には関係が悪化したときほど、北方領土返還をちらつかせる。10月上旬にも親露派の国会議員が訪露し厚遇された。
 
 本書はロシアシンパだった著者の転向の所産でもある。ウクライナのKGBアーカイブなどに接し、ロシアの国家構造の本質を知ることになった。ウクライナ侵攻も必然だという。さらなるロシア分析を聞きたい。300ページ弱でありながら情報満載で読みこなすのは骨が折れる。が、編集が行き届いており、自然とページを前に進ませる。読了後、ロシアを見る目を一変させることは請け合い。多くの人に読んでほしい逸品だ。

山本七平賞について

山本七平賞は、1991年12月に逝去された山本七平氏の長年にわたる思索、著作、出版活動の輝かしい成果を顕彰することを目的に、1992年5月に創設されました。賞の対象となる作品は前年7月1日から当年6月末日までに発表(書籍の場合は奥付日)された、書籍、論文で、選考委員は、伊藤元重(東京大学名誉教授)、中西輝政(京都大学名誉教授)、長谷川眞理子(日本芸術文化振興会理事長)、八木秀次(麗澤大学教授)、養老孟司(東京大学名誉教授)の5氏。
第32回山本七平賞集合写真.jpg


おしらせ 最新記事