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第34回山本七平賞『論理的思考とは何か』の著者・渡邉雅子氏、受賞の言葉

2025年11月13日(木)、都内のホテルにて、第34回山本七平賞贈呈式が執り行われ、祝賀パーティが実施されました。本年の山本七平賞は、渡邉雅子著『論理的思考とは何か』(岩波新書)が選定されました。


論理的思考とは何か

山本七平賞「受賞の言葉」

 このたび栄えある山本七平賞を授与され、望外の名誉と嬉しく存じます。40年近く専念して参りました比較文化研究に対し、思わぬご褒美を頂戴した思いです。審査員の皆様始め、賞の運営に関わる方々、本の出版にご尽力下さった方々、そして研究を支えて下さったすべての方々に、心よりお礼を申し上げます。誠に有難うございました。
 『論理的思考とは何か』では、3つの課題に挑みました。第一に、「論理的思考」は世界共通の唯一の型を持つものではないこと、第二に、私たちの社会を支える論理は、論理学が定式化する体系とは異なる原理で機能していること、そして第三に、そうした異なる論理は、物事の真偽や正誤・可否・善悪・美醜など、価値判断や倫理的道徳観と深く結びついていることを明らかにすることでした。近代社会における紛争は、まさに論理の違いに起因するものと考えられます。
 作文の型を切り口に論理の型を抽出し、政治・経済・法技術・社会の4つの原理から各国の思考法を比較しますと、「欧米」と一括りにされがちなアメリカとフランスはまったく異なる論理で動いており、さらには独自と思えるイランの論理も理解できます。そして日本の感想文に根ざした思考法が、格差拡大や紛争に象徴されるグローバル資本主義社会の行き詰まりを打開する端緒になることに気づけます。
 最後に本書が山本七平賞の名に恥じぬよう、日本の社会と教育に対してわずかなりとも貢献できることを切に願い、受賞の言葉とさせていただきます。

渡邉雅子(わたなべ・まさこ)氏 プロフィール

1960年、長野県上松町生まれ。専門は社会学。1998年コロンビア大学大学院博士課程修了。Ph.D. (博士・社会学)。東京大学社会科学研究所、国際日本文化研究センターを経て、現在名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授。日本学術会議連携会員、中央教育審議会専門委員、日本教育学会理事、日本教育社会学会推薦理事・代議員を務める。著書に、『納得の構造―思考表現スタイルの日米比較』(東洋館出版社、岩波現代文庫)、『「論理的思考」の社会的構築―フランスの思考表現スタイルと言葉の教育』(岩波書店)、『「論理的思考」の文化的基盤―4つの思考表現スタイル』(岩波書店)、『共感の論理―日本から始まる教育革命』(岩波新書)など。


渡邉雅子氏

長谷川眞理子氏による講評

 「論理的思考」というと、ただ一つだと思われるかもしれない。私自身、そう思っていた。しかし、違うのだ。何をめざして論じるかが違えば、話の組み立ては変わり、言い方も変わる。じつは、どんな目的であれ、話の流れ自体はどれも「論理的」なのだが、話す目的が違うと、「論理」の組み立てが異なる。そこで、目的や価値観が異なる人びとのあいだで議論が起こると、互いに相手のいっていることは非論理的だと非難しあうことになる。本書は、そんな不毛を解消するための気付きを与えてくれる。
 世の中には、経済、政治、法技術、社会といった、異なる問題の領域がある。経済領域では、投入した努力に対してどれほど効率的に結果が得られるかが中心課題であろう。しかし、政治は、異なる意見の人びとが集まって住むときに、最大の善を引き出すにはどうするべきか、という問題設定をもつ領域である。これは、経済とは違う話だ。
 さらに、これらの異なる価値観による「論理的」な思考のどれを国家の基本とするかが、国ごとに異なる。そして、それが各国の「作文」の教育に如実に表れているという。筆者は、アメリカ、フランス、イラン、日本の作文教育を取り上げ、それぞれが、「経済」「政治」「法技術」「社会」を主たる価値観としていると示す。こうして、各国の思考の「くせ」が、教育で伝えられていくのだ。
 本書は、作文教育のあり方を通して日本文化の特質を浮かび上がらせる、ユニークな好著であり、山本七平賞にふさわしい作品である。

山本七平賞について

山本七平賞は、1991年12月に逝去された山本七平氏の長年にわたる思索、著作、出版活動の輝かしい成果を顕彰することを目的に、1992年5月に創設されました。賞の対象となる作品は前年7月1日から当年6月末日までに発表(書籍の場合は奥付日)された、書籍、論文で、選考委員は、伊藤元重(東京大学名誉教授)、中西輝政(京都大学名誉教授)、長谷川眞理子(日本芸術文化振興会理事長)、八木秀次(麗澤大学教授)、養老孟司(東京大学名誉教授)の5氏。

第34回山本七平賞


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