人名事典

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荒井一博

(あらい・かずひろ)
 一九四九年長野県生まれ。イリノイ大学大学院を修了、パーデュー大学客員教授、一橋大学助教授を経て、現職。

 日本の雇用制度を、ゲーム理論によって再検討し、現在の「終身雇用」やあるいは「日本型経営システム」を改革しようとすれば、また別の問題が続出すると指摘して、安易な雇用制度改革に真っ向から反論している。

 たとえば荒井氏は日本経済新聞(九八年一月二三日)において、「日本的な雇用制度を廃止して市場メカニズムを重視する」という現在の議論に対し、「この考え方に依拠すれば、世界のすべての国は同一のシステムを採用するようになり、日本的経営などは存在理由がなくなるし、制度と名のつくものはすべて非効率の原因ということになる。日本語さえ非効率要因と見なされるかもしれない」と論じ、それぞれの文化・歴史を考慮しない制度改革論を激しく批判した。

 九七年の『終身雇用制度と日本文化』(中公新書)は、これまでの研究の一般向けの紹介といえるが、ここでも制度というものがいかに多くの要素から成り立っているかを詳細に論じて、市場メカニズムをすべての論拠とする改革論に疑問を呈している。

 安易な雇用制度改革論が横行するなかで、厳密な思考によって日本の雇用制度とその問題克服を再検討している骨のある論者である。

 著作に『教育の経済学』(有斐閣)、『雇用制度の経済学』(中央経済社)などがある。

(データ作成:1998年)