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第25回 山本七平賞 贈呈式が執り行われました

平成28年11月29日(火)、帝国ホテル東京 光の間にて、第25回山本七平賞贈呈式が執り行われました。ここに、山本七平賞受賞者 加藤達也氏、山本七平賞特別賞者 三好範英氏の受賞の言葉をご紹介いたします。

 

山本七平賞

 

『なぜ私は韓国に勝てたか』(産経新聞出版) 加藤達也氏

 

加藤達也 

 

受賞の言葉

 

このたびは栄誉ある「山本七平賞」を授与していただき、まことに光栄に存じます。また、多くの候補作品を前に議論を重ね、拙作を選出してくださった選考委員の皆様に感謝を申し上げます。

『なぜ私は韓国に勝てたか』で描いた、およそ500日の出来事は2014年8月に始まりました。この時期、日韓関係は悪化の一途をたどっていましたが、朴槿惠大統領やその権力中枢においては、両国関係はさほど大きい問題ではありませんでした。朴政権は当時、旅客船沈没事故で表面化した危機に対する脆さや、国民と対話する意思の欠如などを原因に国内で広がっていた失望感を糊塗するのに全力を傾けていました。私はソウル特派員として韓国がそのような状況に至った根本にある「朴槿惠的なるもの」を伝えたつもりでしたが、それが目障りだったようです。

拙作の副題は「朴槿惠政権との500日戦争」と猛々しいのですが、じつは「戦争」というよりは、この時期にこそ「韓国」というものの本質が見えた気がしています。その期間は貴重な観察・取材のための時間だったとさえ思えます。

その時間を与え、公判では全面的な支援を送ってくれた産経新聞社はもちろんのこと、読者や、事の推移を息をのみながら見守ってくださった方々、そして事態解決のため韓国側への働きかけに尽力してくださった日本政府の方々に、この場をお借りしてあらためて感謝申し上げます。そして拙作が、日本人の韓国理解の一助となれたのならば、これに勝る喜びはありません。

 

受賞者プロフィール

 

加藤達也(かとう・たつや) 

産経新聞元ソウル支局長

1966年東京都生まれ。駒澤大学卒。91年産経新聞社入社。浦和総局、夕刊フジ報道部を経て、99年から社会部で警視庁(公安・警備部門)、拉致問題などを担当。2004年韓国・延世大学校で語学研修。社会部、外信部を経て10年11月からソウル特派員、11年11月ソウル支局長。14年10月から社会部編集委員。

 

山本七平賞特別賞

 

 『ドイツリスク』(光文社新書)  三好範英氏

 

三好範英

 

受賞の言葉

 

このたびは栄誉ある「山本七平賞特別賞」を授与いただき、まことに光栄に思います。選考委員の先生方、PHP研究所、出版元の光文社、そしてあらゆる関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

いま、ヨーロッパにいくつもの亀裂が走っています。ユーロ危機をめぐる南北、難民危機やウクライナ危機をめぐる東西、そして英国のEU離脱という斜めの亀裂です。ドイツの緊縮財政への拘泥や、上限なしの難民受け入れ方針が与えた深刻な影響を見れば、どれをとってもドイツがその主要な震源地となっています。

「各国家は力の体系であり、利益の体系であり、そして価値の体系である」とは高坂正堯の言葉ですが、振り返れば拙著は、ドイツの政治外交、エネルギー問題、ユーロ危機、つまり力と利益の問題をテーマとしながら、そこに通底する価値に対する追求の試みでした。拙著にもし他書にない点があるとすれば、ドイツやドイツ人の価値、平たくいえば、国民性、国としての振る舞いのクセを、現実の問題を取材するなかで、把握しようと試みた点にあるのかもしれません。

丸山真男はワーグナーの音楽や、そのナチとの関係を引き合いに、ドイツ人を「この精巧で扱いにくい民族」と書いています。いまのヨーロッパの危機、ひいては世界情勢を理解するために、価値の側面からドイツを理解する必要性は決して減じていない、と考えます。受賞を励みに、ドイツの思想、文化、歴史に関する理解を深める努力を重ねていきたいと思います。

 

受賞者プロフィール

 

三好範英(みよし・のりひで) 

読売新聞編集委員

1959年東京生まれ。東京大学教養学部相関社会科学分科卒。82年読売新聞入社。90~93年バンコク、プノンペン特派員。97~2013年、3度計9年余、ベルリン特派員。著書に『特派員報告カンボジアPKO』『戦後の「タブー」を清算するドイツ』(以上、亜紀書房)、『蘇る「国家」と「歴史」』(芙蓉書房出版)。

 

選考理由

 

『なぜ私は韓国に勝てたか』。本書の著者に対する韓国検察の起訴は、事実そうだったように、報道の自由への侵害を危惧する国際的な批判の的となるのは目に見えていた。にもかかわらず、なぜあえて起訴に踏み切ったのか。捜査はどのようになされ、裁判はどのように進められたのか。無罪判決が確定するまでの過程を、自らの体験を通して記していくなかで、韓国は憲法よりも国民情緒を優先する特異な「情治国家」であること、つねに権力者の意向をうかがう権力迎合政治が専らであることなど、韓国の前近代的な政治体質が見事に描き出されている。著者は最後まで妥協することなく毅然とした姿勢をとり続けた。韓国政治社会の実相を知り、韓国とどう付き合うべきかを知るための最適書であるとともに、日韓関係史上大きな意義をもつ書と評価し受賞作としたい。

『ドイツリスク』。ドイツは日本の原発事故に過剰反応し脱原発へ転じた、南京事件や慰安婦問題での中国の主張に同調した、ウクライナに侵攻したロシアへの制裁に消極的な姿勢をとった、難民の基本的権利には上限がないと大量流入に拍車を掛けた……など、現実を冷静に見詰めることなく、主観的な理想を先行させる夢見る人=ドイツが、世界の大きなリスクになっていると著者はいう。「夢見る人」の言葉に目を見開かされる思いがした。ドイツの政策、メディア報道、歴史的事例などを通して、ドイツがもたらしつつある新たな「世界危機」を鋭くえぐり出し、広く告知した書として高く評価し特別賞を贈りたい。

 

 選考委員 呉善花 

 

 ※なお、その他の委員による選評および山本七平賞の詳細は、 『Voice』新年号(12月10日発売)にて掲載いたします。 

 
 

山本七平賞について

 

 

 

 

平成3年(1991)12月10日に逝去なさった、山本七平先生の長年にわたる思索、著作、出版活動の成果は、日本の読書界に燦然たる輝きをもって聳え立っています。今日山本学と称される、先生の多岐多彩な知的営為は、畢竟、日本および日本人とは何か、を探し求める果てしない旅でもありました。

PHP研究所はここに、先生の業績を顕彰することを願い、山本七平賞を設置し、その比類なき知的遺産を正しく受け継ぐ、新たなる思索家の誕生を期待するものであります。

 

※山本七平賞の詳細、過去の受賞者はこちら


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