月刊「PHP」2018年6月号 裏表紙の言葉

先ほどまで竹刀の音が響いていた道場で、剣士たちが正座し黙想、そして静かに道場に一礼する。ユニホームを泥だらけにした野球少年らが一列になり、大声とともにグラウンドに向かってお辞儀をして練習を終える。

多くのスポーツ選手が示す、場に対するゆかしいふるまいは、観ている者にも一服の清涼剤である。その清々しさがどこから来るかといえば、自分たちが鍛えられるところ、成果を出すところという場の意義をよく理解し、感謝と敬意を忘れないからではあるまいか。

これは日本人の礼のしつけの一端に依るものであり、海外のスタジアムで、日本人観光客が観戦後に座席を掃除して称賛されるのも、同じ意識の発露なのであろう。

人間同士の礼にとどまらず、こうしたいわば場への礼の精神が浸透すれば、社会はより豊かになるに違いない。

多くの外国人が来日し、海外との交流はますます深まろうとしている。グローバルな時代に、日本人の一人として場に対する美意識を世界にも広めたい。そして自分にとっての場をどのように大切にするか、時に思いを巡らせたい。