中井俊巳(なかいとしみ)

作家・教育評論家。1959年、鳥取県生まれ。長崎大学在学中に、聖ヨハネ・パウロ二世教皇からカトリック受洗。卒業後、長崎市の小中学校に23年間勤務。現在は、芦屋市で執筆・講演活動をおこなう。著書に、『感謝の習慣が、いい人生をつくる』(PHP研究所)など。

普段何気なく発している言葉が、私たちの毎日に影響を与えています。

「前向き・肯定的・感謝の心で元気に生きる」をモットーにしています。第一に心がけているのが、自分の言葉(口ぐせ)を「前向き・肯定的・感謝の心」で発することです。
そう思うようになったきっかけは、大学生の時、教育実習の授業での大失敗です。小学二年生の社会科、魚屋さんを見学した翌日の参観者による討議がある研究授業でした。
「お店には、どんなものがありましたか」と問いかけると、子どもたちは勢いよく手をあげました。「はかり」「つりせんかご」など、並んでいた魚の名前も次々と答えます。
ところが、授業は予定の四十分で終わらず、私は無断で次の時間も続けました。ついに給食のチャイムが鳴り、やむなく授業を中断させました。つまり、時間を予定の二倍以上かけても授業内容を消化できなかったのです。
子どもたちや参加者への配慮に欠ける、言語道断、前代未聞のひどい授業でした。研究討議では、参観者二十数名から容赦のない言葉を浴びました。未熟さを思い知った私は、ただ小さく縮こまり落ち込むだけでした。
しかし、ある教官の次の言葉で救われました。「時間がかかったのは、中井君が子どもの発表を、最後まで聴いていたからです。教師になっても、子どもの話を一生懸命聴く先生であってください」。
あれから歳月が過ぎ、厳しい言葉はすっかり忘れましたが、あの教官の言葉だけは私から消えることはありませんでした。
言葉ひとつが失意の人を救うこともあり、生き方を導くこともあります。人の心に残り、人を励まし続ける言葉とは、そんな温かさと強さを持つのものだと知ったのです。

言葉の力で元気になれる

教師になると、言葉にはすごい力があることをいっそう知りました。教師である自分のたった一言で、子どもや親が気持ちや行動を変えるのは日常的なことになりました。
さらに、自分の発した言葉で一番影響を受けるのは、実は自分だということもわかってきました。自分の言葉を一番多く聞いているのは、自分だからです。
例えば、「もう○ 歳だからできない」と言うのと、「まだ○歳だからできる!」を口ぐせにするのと、どちらが活動的で魅力的になれるかというと、「まだ、できる!」のほうです。
ある講演会の後で、拙著『元気がでる魔法の口ぐせ』(PHP文庫)を読まれた八十四歳のご婦人が、言いに来てくださったことがあります。「中井先生、あの本を五年前からいつも読んでいます。すると、毎日明るく元気に生活できるようになり、人間関係も良くなり、人生が変わりました。本当にありがとう ございます!」。
やはり、いくつになっても言葉の使い方次第で、人は元気で幸せになれることを、この方に教えていただきました。

効果抜群の5つの口ぐせ

では、日常的に使えて、効果抜群の言葉を5つほどあげてみます。

「ありがとう」
感謝の言葉は、人も自分も幸せにする最強の言葉です。

「ごめんなさい(すみません)」
素直で謙虚な気持ちになれば、人間関係が良くなります。

「はい」
明るい返事は、自分を素直な心にし、人を幸せにできる一番短い言葉です。

「いいですか」
あえて一言許可を求めることが、人への配慮や思いやりとなりえます。例えば、「エアコンの温度を調整していいですか」など。

「よかった(な)」
人や自分や出来事を肯定すると元気になれます。私はいまもよく失敗をしますが、そのおかげで学ぶことができて「よかったな」と考えるようにしています。

このような言葉は、自分から進んで発すると、いずれ自分にも同じように返ってくるものです。挨拶と似ていますね。笑顔で語りかければ、たいてい笑顔も返ってきます。
こんな小さなことでも心をこめておこなえば、私たちの毎日の生活はいっそう明るく楽しくなると思うのです。