石原加受子(いしはらかずこ)

心理カウンセラー。「自分中心心理学」を提唱する心理相談研究所オールイズワン代表。思考・感情・五感・イメージ・呼吸・声などをトータルにとらえた独自の心理学で、問題解決・生き方・対人関係・親子関係などに関するセミナーやカウンセリングを行なう。『「どうして私ばっかり」と思ったとき読む本』(PHP 文庫)など著書多数。

自分の気持ちを認め、受け入れることで、心に余裕が生まれます。

執筆を依頼され、「自分を励ますいい言葉」というテーマの企画書に目を通しているときでした。
普段なら何気なく通り過ぎる文面なのですが、このときは「具体的なエピソードや、ご自身の体験などを交えて」という文字に、ふと心が動きました。
「そういえば、原稿の依頼を受けたとき、具体的なエピソードは書いても、自分の体験はあまり書かないなあ」
そのことをうっすらと意識したとたん、いきなりひらめいて、そのテーマについての原稿を、瞬く間に仕上げてしまいました。
私にとっては会心の出来映えで、書き終えたときには、久しぶりに大きな満足感に満たされていました。
ところが......。
そのときは、他の作業をしているときだったので、パソコン上に複数の資料を並べていました。
今となっては、その原因をたどってもわからないのですが、仕上げた原稿を保存するつもりが、逆に消去してしまったのです。
絶句する暇もないほど呆気なく。
「ああ~、消えてしまった!」
悪夢というしかありません。
なおも諦めきれず、焦りながらも知り得る手立てを尽くして探してみたのですが、
「もう、元にもどせない」

まずは自分を客観視する

私の体験のように、「諦めるしかない。でも、諦めきれない......」
こんな気持ちで落ち込んでしまっているとき、セミナーやカウンセリングの場でお伝えしている言葉があります。それは、
「ああ、そうか、そうか。そうなんだ」
この言葉は、失意にうなだれているときやショックを受けたとき、非常に効果的です。
私も例にならって、試してみました。
茫然自失しつつも、まずは自分を客観視して、"もう一人の私"として、
「そうか、そうか。それはほんとうに、ショックだったねえ。すぐにひらめいて、一気に仕上げた原稿だったのだから。残念だったねえ。そうか、そうか。そうだね。落ち込むのは無理ないよ」
と、私の心に寄り添うような言葉を投げかけてみました。
次に、その言葉を、自分の心と体の四肢に行き渡らせるように、ゆっくりと、充分に味わってみました。
するとやがて、心がその言葉に呼応して、
「ほんとうに、残念だった......。落ち込むなあ。一気に書いて、自分でも満足できる内容だったからね。そうかそうか、落ち込むよね。そうだね。そうなるのは無理ないよね」
と、自分の気持ちやそんな状況を「受け入れる言葉」が、自然と心のなかに生まれてきたのでした。
その言葉は、自分を慰めるということでもなく、強く励ますという感じでもなく、自分の気持ちに最も近いので、そのままの自分でいられる感じがしました。

否定も抵抗もせず、認める

例えば、こんなとき。
誰かに、嫉妬している。
あの人に、仕返ししたくなっている。
あの人を、恨みたくなっている。
このような、ネガティブな感情に苦しんでいるときでも、同じ要領で、
「そうか、そうか。嫉妬しているんだね。そうなんだ」
「そうか、そうか。仕返ししたくなっているんだ。そうなんだ」
「そうか、そうか。恨みたくなってるのか。そうなんだ」
といった具合に、自分の気持ちを素直に認める言葉を自分に投げかけると、自分を責めないですみます。 あるいは、もし仮に、
「私はなんて、愚かなことをしてしまったんだろう」
「私は、なんて駄目な人間なんだろう」
「もう、無理だ。二度と立ち直れないんじゃないだろうか」
などといった、自分を責める言葉や絶望的な言葉を呟いていたとしても、それに気づいたとき、すぐさま、
「ああ、そうか、そうか。そうなんだ。いまは、そんな気持ちになっているんだね」
と自分に言ってあげれば、心がほっと緩むに違いありません。
こんな言葉で、"いまの自分"や"いまの状況"を否定せずに、あるいは抵抗せずに、認めてあげられれば、さらに、
「落ち込むのは、当たり前だよ。だって、頑張っていたんだから」
などと、やさしい言葉で自分を励ましたくなるでしょう。その結果、私の場合も、
「締め切りまでは、まだ時間がある。しばらく間をおいてみよう」
という気持ちになったのでした。

どんな自分であってもいい

どんな場合でも、自分を否定したり責めたりすることはありません。
「そうなんだ。そんな気持ちになるのは、無理ないことなんだ」
と自分を心から認めていけば、やがて、弱くてもいい、劣っていてもいい、負けてもいい、と思える自分が育っていくでしょう。
そして、いつの日か、
「そうか。どんな自分であってもいいんだ!」
と気づき、これこそが、自分を励ます珠玉の言葉となるかもしれませんね。