月刊誌「PHP」75周年によせて阿川佐和子さんからお祝いメッセージをいただきました。

本誌が創刊75周年を迎えるとのこと、まことにおめでとうございます。75年ということは、終戦からたった2年後に創刊されたという計算になりますね。敗戦の混乱状況の中で松下幸之助氏がどのような意図をもってこの雑誌を始めようと思われたのか。おそらく打ちひしがれた日本人を元気づけ、悩みを抱える人々を励まし、明日への希望の光を照らそうとなさったのだろうと想像される。

私がこの雑誌に原稿の依頼を受けるようになったのは今から40年近く昔であり、そもそもエッセイというものがなんだかよくわかっていなかった、もの書き初心者だった頃である。毎回、テーマを提示され、たとえば「友達」か「家族」とか「落ち込んだときの立ち直り方法」とか「仕事場の人間関係」とか、誰もが必ず直面するであろう問題を取り上げて、だいたい5枚から10枚程度のエッセイを書けというご依頼であったと記憶する。

その依頼の手紙が立派なのである。手書きの美しい文字で、文章もしっかりしていて、決して葉書ではなくきちんとした白い封書で届く。そんな依頼書が届いたら緊張して軽々にお断りできないと思ってしまうほどの丁寧ぶりなのだ。そういう依頼書を送らなければいかんと、おそらくそれがPHP研究所の精神であったのだろう。担当者が違っても、その精神は変わることがなかった。

美しい依頼書のせいもあり、私は自信がないながら、ついお引き受けしてしまう。しかしいざ締め切り日が近づくと、「ああ、書けない」「難しい」と嘆くことが多かった。ただ、今思えば、こうして毎回、あるテーマを与えられて短いエッセイを書くという訓練をしたおかげで、今も文章書きを続けられているのだと深く合点する。自らの興味の向くことばかりではなく、それまでさほど関心のなかったことでも、熟考し、過去を思い起こし、人や本から得た知恵を引き合いにして原稿を書いてみる。そんなもの書き修業の場を与えてくださったのは、まちがいなくこの雑誌だった。感謝しております。 創刊100年を目指し、読者のみならず書き手の心も鼓舞する雑誌として、ますますのご長寿をお祈りいたします。

写真:枦木 功

※本稿は、月刊誌「PHP」2022年5月号掲載記事を転載したものです。

月刊「PHP」創刊75周年記念ページ

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