一所懸命につくった製品ですからね、本来は自分の手で需要者に手渡したいわけですよ。直接渡せば、ぼくらの苦心も話せるし、「ここはこうつくっているから、こう使ってください」と言える。しかしそういうことはやれんから、その思いを小売屋さんから需要者に伝えてもらわないかん。小売屋さんにそこまで説明すれば、「松下はそう考えているのか。だったら私らで伝えましょう」と、こうなる。宣伝やPRはそういう気持ちから出発しているはずですわ。

 しかし、ややもすると宣伝の技術だけに走ってしまいがちですね。技術だけに走ってしもうたら、それはもう宣伝にならない。だから宣伝というものは、いまぼくが言ったような気持ちを十分頭に入れて、別な言葉で言えば心をそこに打ちこんで仕事をする必要がありますな。

 昭和2年、松下幸之助は新たに開発した「ナショナルランプ」の発売に際し、一万個を見本として販売店に無料配布するという大胆な販売方法をとりましたが、さらに新聞に広告を打つことにしました。

 大企業ならともかく、中小企業が新聞広告を出すことなどめったになかった当時において、個人経営の町工場にすぎない松下電器が広告を出すのは大きな決断であり、資金的にも相当な負担でした。それだけに、十分効果あるものにしなければならないということで、幸之助は文案やデザインを練りに練りました。

 夜、寝床に入ってからも文案を考える。そして、書いた文案を新聞の上に置いて眺めてみる。字の太さや大きさはどうか、字と字の間隔はどうか、字体はどうか、周囲から見た感じはどうか――。見るたびに、この字はもっと太くしたほうがいいかなとか、この間隔はもうちょっと空けたほうがいいなと、そのつど見方がいろいろ変わってきて際限がありません。 結局、三日三晩を費やして考えぬき、検討を重ね、何度も手直しをした末にできあがったのが、「買って安心、使って徳用、ナショナルランプ」という3行広告でした。

 この広告は、昭和2年4月9日の新聞に、短冊型、墨ベタ白ヌキの文字で、紙面の中央部分に掲載されました。これが初めて「ナショナル」の名を世に紹介する新聞広告となったのです。

 このように広告・宣伝には経営者みずからが心をこめて当たるべきだという幸之助の信念は、会社がどんなに大きくなっても決して変わることはありませんでした。

 後年、宣伝のあり方について問われた幸之助は、次のように答えています。

 「経営者自身が広告するようでなくてはあきまへんわ。広告代理店がやってくれるから、そこに任せとったらええ、というのではダメです。経営者が、自分で精神をこめてやる。そういうふうにやっているところは、みんな成功しています。逆に、宣伝部に任せっきりのところはあきまへん」

(月刊「PHP」2008年12月号掲載)

松下幸之助とPHP研究所

PHP研究所は、パナソニック株式会社の創業者である松下幸之助が昭和21年に創設いたしました。 PHPとは、『Peace and Happiness through Prosperity』の頭文字で、「物心両面の調和ある豊かさによって平和と幸福をもたらそう」という意味です。

■月刊誌「PHP」

お互いが身も心も豊かになって、平和で幸福な生活を送るため、それぞれの"知恵や体験を寄せ合う場"として昭和22年から70余年にわたり発刊を続け、おかげさまで多くのご支持をいただいています。

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