PHP研究所主催 2024年度文部科学省後援
第8回PHP作文甲子園 優秀賞受賞作

山田光之介
福岡県福岡県立折尾高等学校3年(受賞当時)

時間が経てば忘れてしまうことが多い。悔しくて泣いた日も、楽しくてたくさん笑った日も、きれいなものを見て感動した日も。でも、写真を見れば思い出す。チャンスで打てずに悔しくて泣いた日も、暑い夏の日に自転車で海に行って涙が出るほど笑った日も、山を登って初めて初日の出を見て感動した日も、写真を見れば思い出す。

中学1年生の平日の朝、リビングに行くと9時だった。ソファーに座っていた兄につげられた。「お父さんが死んだ」。

月曜はいつも父が作る鍋を家族で囲んだ。その名残か、今も月曜はよく鍋をする。いつも通り鍋を囲んでいたときに姉が言った。「もっと写真撮っとけばよかったね」。今でもなぜか鮮明に覚えている。

僕は高校生になった。ふとあのときの会話を思い出して父の写真を探した。多くはなかったが、たくさんのことを思い出した。初めて観に行ったプロ野球の試合は、攝津が完封して勝ったこと。大晦日に家族みんなで人生ゲームをして、気づいたら年を越していたこと。やっぱり僕と父の顔がそっくりだったこと。写真を見て思い出した。

写真を見て気がついたこともあった。左頬にほくろがあること。笑うと目尻にシワができること。意外とおじいちゃんになっていたこと。父の写真フォルダを見返すと、お店と焼き鳥の写真ばかりだった。それと同じくらい、父の写っていない家族の写真があった。

写真を見ればたくさんのことを思い出せる。そして、そのときは気がつかなかったことに気がつくこともできる。だから僕は写真が好きだ。これからもたくさん写真を撮ろう。忘れたことを思い出すために。気づかなかったことに気づくために。

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