PHP研究所主催 2024年度文部科学省後援
第8回PHP作文甲子園 優秀賞受賞作
橋本暖生
鳥取県鳥取市立桜ヶ丘中学校2年(受賞当時)
ある日の夕方、僕はいつものようにスーパーで買い物をしていた。
特に急ぐ用事もなく、のんびりと店内を歩きながら、夕飯に何を食べようかと考えていた。野菜や肉のコーナーをひと通り回り、最後にパンのコーナーに立ち寄るのが僕の習慣だった。
僕がパンを選んでいるとき、小さな女の子が隣にやってきた。5歳くらいだろうか、真剣な顔でパンを選んでいる。彼女の背はまだ小さく、上の棚にあるパンに手が届かない様子だった。
彼女が一生懸命に背のびをしている姿を見て、僕は少しだけ迷ったけれど、自然に手が動いて、そのパンを渡してあげた。
「これでいい?」とやさしく声をかけると、彼女は大きな目を輝かせて、「ありがとう!」と元気よく答え、にっこりと笑った。
その小さな出来事だけで、僕の心は不思議と温かくなった。ふだんの買い物の中で、何も考えずに取った行動が、こんなにも心に残るなんて思わなかった。家に帰ってからも、あの女の子の笑顔を思い出して、なんだか気持ちがほっこりとした。こんなささいなことが、僕にとっての宝物になるのだと気づいた。
特別な出来事や高価なものではなく、日常の中でふと出会う小さな瞬間が、僕の心をぽっと明るくしてくれる。いそがしい毎日の中で見落としがちなこうした温かさを見つけることが、僕にとって大切な宝物なのだと思う。これが目に見えない宝物というやつなんだろう。