月刊「PHP」2026年1月号 裏表紙の言葉
新しい年を迎えるのにふさわしい話は、「わらしべ長者」ではなかろうか。
貧しい男が観音さまの導きで1本のわらしべを拾い、旅の途中で出会った人々と物々交換していく。わらしべはみかんから反物、反物から馬へとより価値あるものへと変わり、ついに屋敷と田畑を得るという話である。これをただの幸運と結論づけず、学ぶべきところを考えよう。
結果としてわらしべは大きな資産につながったが、男はけっして自分から無理を通したわけではない。困難に出会った人の求めに応じ、ただ助けたいだけだった。人への素直な奉仕の心が期せずして富につながったのである。
では現代ではどうなのか。重い荷物を代わりに持つ、忙しい誰かに静かに手を貸す、悲嘆にくれる人に寄り添う──利己ではなく利他に徹するところはきっと変わるまい。
新しい年、新たな繁栄を目指す日本。その追求にわらしべは不似合いであろうか。いや、むしろ誰もが持つ1本のわらしべこそ繁栄の基。きっと美しい心映えから物心両面の繁栄が実現されるに違いない。

