頭の中が混乱するとき、どのように冷静になり、心を落ち着かせればいいのでしょうか。

玉置崇(岐阜聖徳学園大学教授)

1956年、愛知県生まれ。愛知教育大学卒業後、愛知県公立小中校教諭、愛知県教育委員会、愛知県公立中学校校長などを経て現職。著書に、『主任から校長まで 学校を元気にするチームリーダーの仕事術』(明治図書出版)など。

* * *

校長時代の話だ。日曜日の午前5時、電話が鳴った。休日のこんな時刻の電話はろくなことがない。できれば鳴り止んでほしいと思いながら、コールが続くので受話器をとった。

電話の相手は、職員のご家族だった。

「主人が昨晩から『死にたい。今すぐにあの世に行きたい』と言い出したのです。一晩中かかって思い留めさせました。今すぐ、校長先生に主人の話を聞いていただきたいのです」

との緊急電話だった。

眠気はぶっ飛んだ。「すぐに伺うかがいます」と告げて、その職員の住所をカーナビに入れて車を走らせた。

赤信号になるたびに、「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせた。本人と面と向かったらどのように話そうか、いや、まずは気持ちを聞くことが先だ、再び「死にたい」と言い出したらどうしようかなど、頭の中が混乱状態のまま、家に着いた。
 

しばらくの沈黙のあと、声をかける

ご家族から、今は落ち着いていることを聞き、部屋に入った。膝をしっかり抱えて、うずくまっている職員がいた。人が部屋に入ったことはわかるはずなのに、顔を上げようとはしない。

そんな彼の様子を見て、なかなか第一声が出せない。「びっくりしたよ」と伝えるのが精々だった。しばらく沈黙が続いた。「落ち着いたかい?」と言葉をかけた。

すると、ポツリポツリと心境を話し始めてくれた。その内容は書けないが、そこまで深く考え込んでいたとは。思いもしなかった話であった。

ご家族に職員から聞いたことを伝え、これからのことを相談して自宅に戻もどった。家を出てから4時間ほど経っていた。それからしばらくは、また早朝に電話が入るのではないかとびくびくしていた。

紹介したような事例に出合う方はまれだと思うが、このとき、自分はどのように心を落ち着かせたかを紹介しておきたい。

まず、自分に言い聞かせた。「大丈夫 、大丈夫。校長宅へ電話ができる状態なのだから緊急事態は回避できたのだ」と。職員が何をするか、心配でならない状態なら、家族も連絡する余裕はないはずだ。電話があったのは、けっして悪いことではないと自分に言い聞かせた。
 

自分で自分を褒めてみよう

また、自分を冷静にさせるもう一人の自分を登場させた。

「落ち着け。落ち着け。焦ることはない」

と、実際に声を出した。落ち着いてきたら、

「いいぞ。落ち着いてきたぞ」

などと声を出して、自分で自分を褒めることもした。

さらに、プラス思考すぎるのかもしれないが、自分に連絡があったのは、職員と結び付いている証。頼りにされたのだから、誇りに思えばよい、とも考えた。

なにより職員は命を落としていない。最悪の状態ではないのだから、これからの対応で、良い方向へ進められるはずだとも考えた。

最悪の状態ではないからよいと思うことで、人の心は落ち着くのではないか。私は、この考え方で大変な状況を乗り越えてきた。

この考え方は、あらゆるところで活用できる。

たとえば、先日の台風で、我が家のカーポートの屋根がぶっ飛んでしまった。その屋根は隣家の庭に突き刺さり、フェンスを傷つけていた。我が家の雨樋いにも接触していて、つい先頃、住まいの十年目メンテナンスで、綺麗に再塗装を済ませたばかりなのに、と唖然とした。

その光景を目の当たりにしたときは、落ち込んだが、最悪の場合、隣家の玄関や車を、我が家の屋根が傷つけた可能性がある。思わぬ出費だが、人を傷つけるなど最悪のことを想像したら、安いものだと思い直した。