月刊「PHP」2020年3月号 裏表紙の言葉

人生は出逢いと別れのくり返し。どちらに味わいがあるかと言えば、やはり別れのほうなのかもしれない。
なぜならば、出逢った瞬間では、この人が自分にとってどれだけ大切な人になるかは、まったく見当もつかないからである。
もちろん、一目惚れのように、出逢った刹那に心が虜になることもあろう。けれども、その歓びが不変のままとは考えにくい。当然のごとく生ずる様々ないざこざによって、互いに悩み、苦しむこととなる。
いずれにせよ、真実の愛や友情、信頼というのは最初から成立するものではない。数々の葛藤を通して培われ、鍛えられ、そうして訪れる別れの間際に、初めてこの人と出逢えたありがたさを知るのである。
卒業や期の終わりを告げる弥生の空は、あまねく惜別の時を見守っている。「さようなら」「いつかまた」――。交わす言葉に誘われ、にわかに心が昂る。もう二度と会えないという別れであれば尚更であろう。
あらゆる出逢いに感謝し、一つ一つの惜別の思いをしっかりとかみしめたい。