月刊「PHP」2020年8月号 裏表紙の言葉

昨日まで世界の常識だった価値観や秩序が、一日にして変わる。ありえないようなことが実際に起こるのが世の不思議である。安全や健康に対する意識も例外ではない。

歴史を紐解けば分かる。天動説の世に地動説が唱えられた時の人びとの驚き。フランス革命や明治維新といった数々の動乱も同様で、一つの発見や革命や伝染病で社会が変わる現象は極めて多いのである。

何の因果でこんな影響を受けるのやら――。天を恨みたい気持ちにもなろう。しかし、それはけっして今を生きる我われだけの不満ではない。これは人類史上数千年、かつて何千億の人が経験した不条理の一つ。所詮、腹をくくるしかないのである。

ただ古い秩序が失われたならば、代わりの何かが誕生している。一方で、いったん廃されても必要と分かれば復活されるものもあろう。

大切なのは柔軟さ、断絶の中に垣間見える流れに逆らわないことではないだろうか。その心がけがあれば一時の不自由を被っても希望は必ず見えてこよう。