月刊「PHP」2021年2月号 裏表紙の言葉

私たちの周りにあるたくさんの物、それら一つひとつの物には人と同じように心があると考えればどうだろう。
机にうず高く積まれた本たちにマイクを向ければ、「いつになったら読んでもらえるのか待ちくたびれています」という声が返ってくるかもしれない。
海底に眠るプラスチックごみに話を訊けば、「自分はこんな所に来るつもりはなかった。魚に危害を与えるつもりもない。早く居るべき場所に戻してほしい」と言うのではないか。
元々自然のものすべてに神がいるというのが日本であり、日本人は物を大切にする。"もったいない"の精神だって健在である。
ただ物を持つことが豊かさの象徴となり、日本人の幸福感を高めたのはよいけれど、質の向上、量の過剰、嗜好へのこだわりが、始末する上で困難な世の中になっては意味がない。物には寿命がある以上、すべてを適切に処理するためには、半永久的な努力は必然であろう。
人間だけではない。時にはもの思う物の気持ちになって、適切な処遇に心したい。