月刊「PHP」2022年4月号 裏表紙の言葉

零下20度。すべてが冷えきって、生きとし生けるものが氷漬けになったとしても、春の訪れとともに虫たちはぎこちなく足を動かし始め、草木の柔らかい芽は秘かに地表への出口をまさぐっている。
生きものたちが陽気とともに、こうした真の生命力を一斉に見せる現象はなんと不思議なことだろう。
人間もまた然り。春の到来が、人生や生活の区切りとなっているのも自然の理法、新たな躍動の機会が与えられているからとは言えないか。厳しい冬を乗りきり、英気に満ちている人びとの姿もまた、生成発展の姿そのものとは見えないか。 だからこそ、春のこの運気に順応せず、動き出さないままでいるのはあまりにももったいない。
不安もあり、逡巡する気持ちもよくわかる。自然の摂理は一方で厳しく、春雷とともに雹が降るのもまた春の様相の一つである。
それでもそんななかで、みずからの天分を信じて、前に進むことは貴い。まして生命が最も輝く季節には、虫にならって、とにかく蠢動することが何にも増して大切に思えてくる。