月刊「PHP」2022年8月号 裏表紙の言葉

ある日、荘子が道を歩いていると、沢の中に一羽の鷺が何かをねらって立っている。捕えようと近寄ったが、鷺は逃げようとしない。見ると鷺は一匹の蛙を食おうと窺うのに夢中で、自分の気配に気づかないらしい。
一方、ねらわれている蛙もまた逃げる気配がない。実は、蛙は蛙で眼前の一匹の羽虫を食べようとして、自分をねらう鷺の存在に気づいていなかった。
その状況を察した途端、荘子は恐怖を感じて、杖を投げ捨て逃げだしたという。その理由はなぜか。
鷺も蛙も他を害することに捉われ、己を害そうとする存在に気づかない。待てよ。自分も今、鷺をねらおうとしているが、同様にもっと強力な誰かが自分を殺そうとしているかもしれない、と自らの危険を悟ったからである。
人は常に自分なりの道理で行動する。それは自然なことである。ただ、より広い視野で自分の行ないを眺められれば、自分とは違った道理も見え、より思慮深くなれるのではないだろうか。成長のために、他人の目線で自分を眺める修養も高めたいものである。