月刊「PHP」2023年5月号 裏表紙の言葉

ときを経て価値がわかることがある。たとえば、学生時代のある授業の思い出。クラスメートの誰かが叱られ、先生の諭す言葉にクラス全員が耳をかたむけたこと。そのときの友逹のさまざまな表情が記憶の片隅に残る。
ふつうに終わった何気ない時間でも、長く忘れ去られている間に、シーンだけが切り取られ、いつしか愛しい追憶の一つへと姿を変えている。
たくさんの苦楽を経験したあと旧友と昔をふり返るとき、大したドラマがあったわけでもないあのころが、自分の想像を超えて懐かしくよみがえってくる。友の横顔に、同じ時間をともに過ごしてくれた感謝の気持ちすら湧いてくる。
それは必ずそうなるわけではなく、お互いがそれぞれの人生をひたむきに生き、まずまず納得できる人生を共有できるようになったからであろう。
成功したとか、誰かに勝ったとかがなくても、真摯な人の人生には幸せの麹がまぶされ、発酵して風味豊かな酒がたたえられている。だから、ときには一献ゆっくり味わってもよいのではないか。それが人生の醍醐味なのだから。

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