PHP研究所主催 2022年度文部科学省後援
第6回PHP作文甲子園 優秀賞受賞作

藤田美音子
同志社国際高等学校3年(受賞当時)

「うるさい。もういいよ」

両親からの愛情が、当時は鬱陶しくて仕方がなかった。とにかく解放されたかった。

だから、逃げるように全寮制の学校へ進学した。すぐに友達ができた。学校が終わっても寮でずっと一緒に過ごせる。気が済むまで語り、笑い、遊ぶ。お菓子を食べすぎても、苦手な野菜を残しても叱られることはない。最高だ。家になんて一生帰らなくてもいいとさえ思った。

もちろん大変なこともあった。掃除、洗濯、身の回りの整理整頓。加えて、課題や部活動も両立しなければならなかった。でもしんどいのは自分だけじゃない。みんながいるから大丈夫。そう思い、乗り切った。

ある日、いつも一緒にいる友人とけんかをした。誰かに話を聞いてほしかった。とはいえ、相談できる相手はいなかった。それもそうだ。少人数で、狭く深い人間関係。話せばすぐに噂が広まる。あることないこと言われて、さらにこじれてしまうかもしれない。だからグッとこらえた。さびしかった。普段、あれだけ友達に囲まれているのに。いざというとき、自分は孤独なのだと実感した。

夏休み。三カ月ぶりに実家へ帰った。何とも言えない安心感が訪れ、同時にどっと疲れが出てきた。何もする気が起きなかった。思いのほか、疲弊していたのだ。円満な関係を築くために、寮ではできるだけ「善い自分」を演じていたから。 

しばらくして母が私に尋ねた。「学校はどうなの?」すぐには答えられなかった。話したいことがあまりにも多すぎて。あんなことがあった。こんな人に出会った。時系列なんて気にせず、ひたすら話した。両親は静かに私の話に耳を傾けてくれた。時折相槌を打ちながら、堰を切ったように語り出した私を優しく見つめてくれた。

途中で、胸の奥底から何だか熱いものがこみ上げてきた。気づけば泣いていた。ありのままの自分をさらけ出せる。土台であり本拠地。それが家族なのだと知った。だから、あらためて。お父さん、お母さん。いつもありがとう。

月刊「PHP」最新号はこちら

定期購読はこちら(送料無料)