PHP研究所主催 2024年度文部科学省後援
第8回PHP作文甲子園 優秀賞受賞作

福田 友
鳥取県鳥取市立桜ヶ丘中学校2年(受賞当時)

私の宝物はピアノを始めた時に使っていた小さなキーボードだった。小さい手で一生懸命練習をしていたけれど、ある時鍵盤が足りなくなってお店で新しいものを買うことになった。電化製品が並ぶ一角にピアノのコーナーがあり今使っているものよりはるかに大きいアップライトピアノが並んでいて、自分もずいぶん大きくなったな、なんて思いながら選んだのを覚えている。

それから数日後、家に大きなピアノが届いた。業者の人が運んでいる様子を見ていたけれど、とても大変そうだった。部屋の隅に置かれたピアノを見て、私は心が躍った。毎日毎日練習していた小さなキーボードは、母が使うことになった。

そしてピアノが来た日から何年も経った。途中、やめたいと思う日が何度もあったけれど、めげずに続けてきた。「やめたい」より「楽しい」のほうが多くて、つらい日々の中にときどき「楽しい」が来て自分を引っ張っていく。だから続けることができたんだと思う。

そして中2になってすぐ、母が「あのキーボード壊れちゃったから買い替えないといけない」と言った。言われた瞬間、正直「まじかぁ」って思った。長いこと使っていた分愛着があったため、買い替えるのは少し寂しかった。けれど、壊れてしまったものはしょうがない、と心を切り替えた。

そして母と数年ぶりに電器屋さんに行った。そこには変わらずたくさんのピアノたちが並んでいた。なつかしむ気持ちと同時にあの時感じたワクワクも込み上げてきた。寂しさもあるけれど、新しいものに触れるワクワクのほうが大きかったからなのかもしれない。

そして新しいものを買ったことで、いよいよあのキーボードはお役御免になってしまった。名残惜しいけれど、形あるものはいつか壊れてしまう。あのキーボードみたいに今のピアノが宝物になるように、ずっと大切に使い続けたいと思う。もう形はないけれど、宝物は今も私の心の中に残り続けている。

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